中国の旅
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旅行中の忘れ得ない光景
作者:nhkadsl007 |時間:2007-4-10 18:40:30 | 閲覧:3488

旅行中の忘れ得ない光景がいくつかある。

 上海の虹口公園である日見た光景。それは、ある若い中国人の男性が公園の地べたに置いた数個の平たい石を「和紙」代わりにして「習字」の練習をしていた光景である。手には筆、しかし墨はなく、缶に入れた水が墨代わり。彼は文字を最初の石の上に書いた。続いてすぐ横に並べた石にまた書く。そしてまた次の石に‥‥。五つほどの石に文字を書くと今度は最初の石に戻る。その時最初の石の状態はすでに水が石に吸収されているから文字は完全に消え失せ、石の上は「白紙」の状態になっている。よって、習字のための「紙」は次々と再生されていて、彼は、「水と筆と平たい数個の石」さえあれば一日中習字の練習ができるのであった。彼の周囲には「他にすることのない」人々が大木の前に立ち、目を伏せて一時間も瞑想していたり、グループで太極拳をしていたりするのである。

 中国人が漢字を発明したことは歴史的事実であるが、その漢字が、筆やら硯(すずり)やら墨やら机やら練習のための空間さえ十分に手に入らない人々の生活の中でこのようにして生きている現実を知ったときの驚き。文化の真実を知る一瞬。これまでのすべての疑問を一瞬にして解いてくれる「百聞は一見に如かず」の光景を実際に体験できたことへの喜び。旅は人の心を豊かにするし、そこから得るものは多い。

 しかし、実際のところ旅行の前のあれこれをいまになって思い出すと我ながらあきれる。あるいは赤面する。

 まず、事務的な問題としてビザというものの実態がよく飲み込めなかった。ビザを取るのに金がいるということも知らなかった。国によってビザ取得のための手数料が違うということも当然知らなかった。 

 次に、為替相場についての知識がない。旅行前に円建ての旅行用小切手を購入したのだが、ある友人から「おまえ馬鹿だね。円がどんどん上がっているということはそれだけドルが安く買えるということだ。以前なら一ドルを買うのに二○○円必要だったものが、いまでは一二○円で買えるんだ。おまえはどこまでいっても馬鹿だね。一○○円はいつまでたっても一○○円なんだからさ、いまドルを買わなきゃいつ買うんだ」と言われて、円建ての小切手を買ってしまったことによって、あるいは、ドル建ての小切手を買わなかったことによって果たしていくら損をしたのか、得をしたのかと、しばらくの間真剣に悩んだ時期があった。

 あるいは別の友人からは「一人で行くんだから万一のことを考えて、ビスケットとかチョコレートを持っていった方がいいぞ」と忠告され、中国での生活水準の現実を知らぬ私は一瞬考えたあげく、実際にビスケットとチョコレートを二つづつリュックに入れた。

 いずれにせよ、中国に対する漠然とした知的好奇心はあったものの現実は旅に必要な基本的知識さえ持ち合わせぬまま船に乗ったと言える。